感想:鳥葬ーまだ人間じゃないー(江波光則)
鳥葬 ーまだ人間じゃないー
※ネタバレあるかも知れませんのでご注意を。
1.感想
この本を買ったのはだいぶ前なのですが読むまでに随分と時間をかけたなぁ。
確か、サイコホラーの小説を読んでみたいなぁと思っていたんです。
読んでみて、想像していたサイコホラーとは大分違いましたがこの小説はなかなかに味わい深い。
特にタイトル。”鳥葬”、そして副題の”まだ人間じゃない”が何とも。
この物語は正義や罪を問いたいのではなく、罰や人を問うものだと思います。
公式でも青春群像ミステリと表記されていますし、この小説は謎解きの要素があります。
ですが、謎の趣旨が思い浮かべやすい、一般的なミステリとは違います。
メタ的なところから入ってしまい申し訳ないのですが、登場人物の少なさや特徴、あからさまなミスリードなど、物語の中盤くらいには八尋を殺した犯人は想像できてしまいました。
ですが、核心には至れない。
犯人がわかっても動機はなにか? どうやって殺したのか?
この辺りはさっぱりでした。
八尋の死。
それは群がる鳥たちの啄みから逃れるため。
陵司が友達は本と言えるような孤独な人物だからこそ真相に辿り着けた、というのは何とも皮肉で面白かった。
また、自分を偽ることで身を守った桜香が、過去を偽り自分を消そうとした八尋の心臓を貫くのも、運命めいた因果を感じさせます。
ミステリ。
私個人の話なのですが、ミステリは読んでいき真相が明かされていくと最後に2つの感覚を覚えます。
1つは謎が解けてスッキリとしていくもの。
自分がずっとわからなかった部分が詳らかとなる瞬間の、”あ~、なるほど!”というあの感覚は何とも心地の良いものです。
もう1つはガラガラと自分の中の何かが崩れていくもの。
どこか退廃的な気分から、さらに深く陰惨なものへと急降下していくような、自分の足場が抜け落ちていくような感覚。
それは自分が思いもしなかった価値観や考え方に触れた時によく陥ります。
今回は後者の感覚です。
八尋の死の動機は私の想像し得ないものでした。
ですが、そこには大変共感できるものがあります。
こんな世の中だからこそ、この小説を是非読んでもらいたい。
2.あらすじ
幼い頃、陵司は人を殺した。ゲーム感覚で道路に石を投げ、それが車に当たってしまい運転手は事故死した。
殺すつもりがあったわけではない。石を投げたら結果的に人が死んだのだ。
陵司の他に同じ”ゲーム”をしていたのは4人。
そのうちの1人、同い年の八尋がラブホテルで首を吊ったと連絡された。
八尋は亡くなる前に陵司に1通のメールをしていた。
”過去に殺される”
これはどういう意味なのか?
八尋とは同じ高校に通っていたが、あの過去から連絡を取り合わなくなっていた陵司。
かつて、陵司は八尋と過去を”交換”した。
陵司は八尋の葬儀で久しぶりに会った4人のうちの1人、桜香に相談すると八尋がSNS上で陵司を騙っていたことを知る。
これはどういうことなのか。八尋は何をしていたのか。
そして、再び奇妙なメールが送られてきた。
”次はお前を殺す”
これは復讐なのか?
”ゲーム”で死んだ人間の遺族が”メンバー”を殺そうとしているのか?
奇妙な場所での死亡、八尋からの意味深なメール、八尋の騙り、唐突な殺害予告。
”メンバー”の瑛二と燈子にも声をかけて、事件を考え続ける陵司の前に詳らかとなった真相は、人間であるがゆえのものだった。
3.21時入眠的に刺さって仕方のない台詞
恥は何よりも鋭い。
真相が明らかとなり、桜香と話していた時の陵司の台詞です。
言われてみれば確かにそうかも、としみじみ思いました。
子供の頃は気にもしなかった言動が大人となって振り返ると身悶えする。
いわゆる黒歴史というものであり、誰にでも1つはある目を背けたい己の過去です。
私なんて両の指では足りないくらいにやらかしてきましたからね。
八尋の気持ちはわかります。
ただ、八尋は生きるためにその黒歴史の刃を鋭く研ぎ澄ませ過ぎたのです。
人からもらったものだから。本物じゃないから。真実じゃないから。
だからこそ、真贋を疑われないくらいに鋭く研ぐ必要があった。
周囲からの無責任な正義という嘴。
精神を啄み続ける多くの鳥たちを追い払い、斬り伏せたかった。
でも、それは諸刃の剣であったことを八尋は気付かなかったのでしょう。
いや、あるいは気付いたからネット上からでも陵司になったのしょうか。
本物の陵司になれれば諸刃の剣に怯えることない。
当の陵司は孤立を貫いている。
取って代わることは可能だろうと。
本当に皮肉なものです。
忘れたい過去ほど忘れられず、忘れようと務めるほどに過去は鋭さを増して心臓を抉りに来る。
そして、それが人間である証左とは。
ヒトは嘘を付く生き物ですが、もしかしたら”恥”とは嘘を吐き続かせないための制御機能なのかも知れませんね。
ではでは~。
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